嚀に引っかけると、痩せ枯れた手でノロノロと山羊髯を撫でた。これだけの科《しぐさ》でも、生き馬の眼を抜く編輯長の資格は落第なんだが。
「ホッホッホ。新聞では迷宮じゃが……サアテナ……実際はモウ解決が付いておりはせんかナ……ホッホッヒッヒッ……」
「それじゃ貴方《あなた》には見当が付いてるんですか」
「付きませんな。現場《げんじょう》を見ておらんから」
「ヘエ。そんならドウ解決が付いてるんで……」
「目的無しの犯罪チウは在りませんてや」
「賛成ですね。僕も同意見です。ですから……」
「それじゃからその目的はモウ遂《と》げられとる頃と思う」
「その目的というのは金《かね》でしょうか、それとも……」
「加害者に聞いてみん事には解りませんな」
「被害者の後家《ごけ》さんはどこに居るか御存じですか」
「後家さんに当っても無駄じゃろう。根が馬鹿じゃけに何も知らんじゃろう」
「そうですかなあ。僕は後家さんが一番怪しいと思うんだがなあ。その後家さんと、どうかして心安くなった犯人が、共謀して……」
「ヒッヒッ。箱崎の警察もアンタと同意見じゃったがなあ。後家さんは何も知らいでもこの事件は立派に成立する可能性
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