だけでも未解決の犯罪記事がウジャウジャ在る。……どうせ田舎の警察と新聞だから、見落しばっかりの手抜かりばっかりで、片端《かたっぱし》から迷宮に逐《お》い込んだのだろう……なんかと思い思い、そんな迷宮事件や尻切蜻蛉《しりきれとんぼ》事件の一つ一つを点検して行くと、目星《めぼ》しい記事がタッタ一つ見付かった。
それは殆んど完全に近い迷宮事件と見える殺人事件であった。手口は極めて残忍な割に犯跡がわからないらしく、既に捜索に次ぐ大捜索後、一箇月を経過している。……ヨシ……コイツを一つ解決して吾輩の腕前を見せてやろう。吾輩一流のヨタやインチキを絶対に用いない地道《じみち》な、五分も隙の無い本格式の探偵法で、ドン底までネタをタタキ上げて、あの山羊髯をギャッと云わせてくれよう。ついでに県下の警察と新聞社の眼球《めだま》を刳《く》り抜いて、押しも押されぬ雷名を轟かしてくれよう。
……事件の内容は極めて簡単である。
去る十一月三日(大正十一年)、の午前中の出来事だ。
福岡市外、箱崎というと有名な筥崎《はこざき》八幡宮の所在地だろう。その八幡宮の横町に在る下駄屋が、まだ寝ていると見えて、表の板戸
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