事を名乗り上げている吾輩を見事手玉に取った上に、黙って七十円の大金を呉れている。むろん吾輩も七十円以上に価する名記事を取るには取った……取らせられたつもりだが、今日会って、改めて御礼を云っても……オヤ、そうでしたか……といったような顔で朝日を輪に吹いている。続いて働らいてくれとか、履歴書を出せとかいうような挨拶を一言もしないで空嘯《そらうそぶ》いている事は昨日の通りである。むろんこっちからも……引続いて雇ってくれるかどうか……なんて念を押すようなヘマはしない。ウッカリ云い出して「別に雇った訳ではありませんが」とか何とかフワリと遣られたら、摺《す》れっ枯らしの沽券《こけん》に拘《かか》わるばかりじゃない。折角《せっかく》あり付きかけた明日のオマンマがフイになる。何とも云わずに図々しく居据わる事だ。そうして追い出そうにも追い出し得ないスバラシイ記事を今日も一つ取る事だ。……そう思い思い編輯室の隣室《となり》の応接間に架けて在る玄洋日報|綴込《とじこみ》を、丸|卓子《テーブル》の上に引出して、前月以来の三面記事を次から次へと引っくり返してみると……。
……あるある………。
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