ら、その投書を新聞に素《す》ッ破抜《ぱぬ》いてやったらいいじゃないの。アンタが書いた文句を妾が写して行ってもいいでしょう。そいつを記事にしたら警察でもビックリするにきまっているわよ」
「ウーム。それもそうだな」
「何とか面白い文句を考えて頂戴よ」
「駕籠《かご》を抜けたが麻雀《マージャン》お玉。警察《さつ》のガチャガチャ置き土産。アラ行っちゃったア……っていうのはどうだい」
「――ナアニ。それ安来節!」
「ウン。今浅草で流行《はや》り出している」
「面白いわね。妾今夜踊るわ、その文句で――」
「止せよ。見っともない。ワンピースの鰌《どじょう》すくいなんかないぜ」
「新聞記者救いならワンピースで沢山よ」
「巫戯化《ふざけ》るな」
「フザケやしないわ。真剣よ。東南西北《トンナンシーペー》苦労の種をツモリ自摸《つも》って四喜和《スーシーホー》っていう歌もあるわ」
「アラ。振っチャッタア……ってね」
「まあ憎くらしい」
「アハハハ……あやまったあやまった……」

       三

 あくる朝眼が醒めた吾輩は象牙色の天井を仰ぎながら考えた。夢を見ているのじゃないか知らんと思った。それから博多湾
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