ちている扉《ドア》を押すと、イキナリ販売兼、会計部らしい広間に這入った。しかし人間は一人も居ない。マン中の鉄火鉢の前に椅子を引き寄せた小使らしい禿頭《はげあたま》が、長閑《のどか》に煙草を燻《くゆ》らしているだけだ。
「きょうはお休みなんですか」
と少々面喰った顔で吾輩が尋ねると、禿頭《はげあたま》の小使が悠々と鉈豆煙管《なたまめぎせる》をハタイた。
「イイエ。販売部は正午《おひる》切りであすが……何か用であすな……」
と云い云い如何にも横柄《おうへい》な態度で、自分の背後の古ぼけたボンボン時計を見た。二時半をすこし廻わっている。少々心細くなって来た。
「アノ編輯長は居られるでしょうか」
「編輯長チウト……津守《つもり》さんだすな」
「ええ。そうです。そのツモリ先生に一寸《ちょっと》お眼にかかりたいんですが……」
「何の用であすか」
「新聞記事の事ですが」
「……………………………」
小使は中々腰を上げない。苦り切った表情で又も一服詰めて悠々と鉄火鉢の中に突込んだ。吾輩は心細いのを通り越して腹が立って来た。コンナケチな新聞社にコンナ図々しい小使が居る。まさか社長が化けているのじゃ
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