フォームに突立っている群集の姿を一人一人見まわしているうちに上り列車が着いて、こっちのプラットフォーム一パイに横たわった。……と思うとその刑事は、さり気ない風情《ふぜい》で、郵便車の前に佇《たたず》みながら、改札口の方向を監視し始めた。四十恰好の眼の鋭いチャップリン髭《ひげ》を生やした男だ。
そのうちに下りの急行も着いたらしく改札口が次第にコミ合い初めた。駅員が三人で三処《みところ》の改札口を守っているが仲々|捌《さば》き切れない。バスケットを差上げる田舎者。金切声を出して駈け出す令嬢。モシモシと呼び止める駅員。オーイオーイと帽子を振る学生なぞ。然し吾輩はソンナものには眼もくれないで刑事の眼付きを一心に注意していた。煙たそうに口付《くちつき》を吸いながら改札口を見守っているその眼付きを……。
するとその口付が半分も立たない中《うち》にポイと刑事の口から吹き棄てられた。同時に刑事がノッソリと郵便車の前を離れて、群集に混っているモウ一人の刑事らしい男とうなずき合った。群集の中のどれか一人を眼で知らせ合いながら……どこからか跟《つ》けて来た犯人をリレーしている気はいである。
吾輩はすぐ
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