々とステッキを振り振り停車場へ引返した。三等待合室へ張込んで、クチャクチャになった朝日の袋の中からモウ一本引出して美味《うま》い美味い煙を吸った。
 ……実際自信があったのだ。どんな小さな都会でも新聞記事が無ければ停車場に行くに限る。アトは眼と頭だ。それから足だ。
 煙草吸い吸い構内を一周《ひとめぐ》りして見ると、新聞記者らしい者の影が一つも見えない。町が小さいのか、新聞社が貧弱なのか。停車場専門の記者が居ないと見える。モウ四時半の上り下り急行列車が着く間際なのに……と思いながら一二等の改札口に来て左右を見まわすと……居た……。
 但、新聞記者じゃない。茶の中折に黒マントの日に焼けた男がタッタ一人駅長室の前に立っている。その引締まった横頬と、精悍《せいかん》なうしろ姿はドウ見ても刑事だ。ことに依ると毎日張込んでいる掏摸《すり》専門の刑事かも知れないと思ったが、それならタッタ今改札し初めた、改札口に気を付ける筈なのに、そんな気ぶりも無い。心持ち前屈《まえこご》みになって、古い駒下駄の泥をステッキの先で落している。たしかに大物を張込んでいるらしい態度だ。その態度を片目で注意しいしいプラット
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