に一二等改札口から引返して出口に向った。
見るとチャップリン髭の刑事は大急ぎで駅前の青電車(東邦電力経営)の方へステッキを振って行く。その五六間先に、派手なハンチングを冠《かぶ》って、荒い格子縞の釣鐘《つりがね》マントを着た男が、やはり小急ぎしながら電車に乗りに行く恰好が眼に付いた。これが新聞記者特有の第六感というものであったろうか。それともその釣鐘マントが急ぐ速度と刑事が跟《つ》けて行く速度が似通っているせいであったろうか。その釣鐘マントの影に重たそうな風呂敷包を携《さ》げているのが見えた。結び目の隙間《すきま》から羊歯《しだ》の葉がハミ出しているところを見ると、果物の籠か何からしい。
吾輩は足を宙に飛ばした。満員になって動きかけているその電車の前の方から飛び乗った。うしろの方のステップには刑事がブラ下がっているから遠慮した訳だ。「モット中へ這入って下さい」と運転手から怒鳴られるまにまに吾輩はグングンと中の方へ身体《からだ》を押し込んだ。マン中の釣革にブラ下っている縞《しま》の釣鐘マントの横に身体を押し付けながら、素早くマントの裾をマクリ上げて、風呂敷包みの横の隙間から気付かれ
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