ら探し出して、それを見い見い記事を書いているうちに一時間ばかりして写真師が濡れた臭素紙《しゅうそし》を二枚持って来た。
見ると驚いた。
まだ生死不明の境に昏睡している筈の此村ヨリ子が、寝床の上に坐っている大ニコニコの愛嬌顔が堂々とあらわれている。吾輩はちょっと面喰ったが、モウ一枚の煙草店の写真の前に、古い写真の中に在る人力車の向う向きの奴を切抜いて貼り付けて、工合よく補筆した上で、俥《くるま》の背後に安島家の定紋三階菱を小さくハッキリと描いた。その写真をモウ一度複写した奴に、ヨリ子のニコニコ顔と、安島夫妻の写真を添えて、記事と一所に山羊髯に差出した。
記事の内容は「自殺を企てた安島二郎氏の愛妾」「その自殺を知らずに本邸から迎えに来た、二郎夫人の自用車」「ソレとわかった安島子爵家の大狼狽」という意味で、見た通り、聞いた通りの事実を、普通の記事|体《てい》に一直線に書き流して、夫妻の感想談を麗々しく並べた興味百パアセントの夕刊記事であったが、その分厚い原稿を山羊髯は夕刊の二面にデカデカと載せた。
多分臨時議会後で記事が足りなかったんだろう。
するとコイツが恐ろしく利いたと見えて、
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