ば、その眼鏡を三つとも掛けて見つけろ。そうして御飯を食べさせてもらえ」
 と云って、お倉の中へ入れられました。
 お倉の中へ入れられた武雄さんは、大あばれにあばれて泣きましたが、そのうちに泣く力も無くなる位お腹が空いてきました。力も何も無くなって冷たい板張りの上に寝ながら、「ああ、お母さんがいらっしゃると、こんな時には直ぐにあやまって御飯を食べさせて下さるのになあ」と思ってメソメソ泣いておりましたが、その中《うち》に不図《ふと》、最前お父さんが、「そんなにお母さんに会いたければ、その眼鏡を三つともかけて探してみろ」と云われた言葉を思い出しました。
 武雄さんは眼鏡を取り出して三つとも掛けて見ました。けれどもいつまで待っても何も見えません。しかし他にあてもありませんから、眼鏡をかけたままくら暗《やみ》の中にじっとして、お母さんが見えるのを待っておりました。
 すると不思議や、くら暗《やみ》の中になつかしいなつかしいお母さんの姿がありありと見えて来ました。お母さんは悲しそうな顔をして、こうおっしゃいました。
「武雄や、お前はお母さまがいないからといっていたずらをするならば、私はもうお前を児
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