三つの眼鏡
無署名(夢野久作)
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)亡《な》くなられてから
−−
武雄さんはお母さんが亡《な》くなられてから大層わるくなりました。今日も何か面白いいたずらは無いかと考えてお座敷に来ましたら、机の上にお祖母《ばあ》さんの眼鏡《めがね》がありました。武雄さんは手を拍《う》って喜んで、その眼鏡を懐《ふところ》に入れました。それからお父さんとお姉さんの眼鏡も探し出して一所に懐に入れて、どこかへ遊びに行きました。
お祖母さんがお座しきに帰って来られますと、眼鏡が無いのでまごまごしておられます。お父さんは支度して出かけようとなさいますと、大切な金ぶちが無くなっています。お姉さんが買いものから帰って来られますと、これも眼鏡がありません。
「ああ、きっと武雄さんよ。あたし困っちまうわ。眼鏡がなくちゃ、晩のお支度が出来やしない」
「弱ったな。俺も眼鏡が無くちゃ、向うへ行って用が足せない。仕方がない。やめる事にしよう」
「わたしも縫い物が出来《でけ》やせん。お母さんが亡くなってからほんとに武雄はわるくなった」
と三人は顔見合わせて困ってし
次へ
全5ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング