まいました。仕方がないから何もかもやめて、三人で手探りに晩の支度を初めました。
そのうちに御飯の火を焚き付ける段になると、お姉さんはマッチの箱の蓋がすこし開《あ》いているのを気が付かずにマッチを摺《す》ったために、マッチ箱の中のマッチに火がついて一時に燃えて、姉さんは手にやけどをしてしまいました。
姉さんが泣き出しましたので、祖母《おばあ》さんがお座しきから出てくると、暗い処で摺鉢《すりばち》につまずいて足をたがわかしてしまいました。お父さんが驚いて介抱をし、今度は自分で御飯の支度をしようとしますと、今度は肝腎のマッチが無くなりました。どこを探しても見当らないので、お父さんは近所までマッチを買いに行かれた留守に、武雄さんが帰って来て、
「御飯御飯」
と怒鳴りながらお茶の間へ座り込みました。
お姉さんは泣いています。お祖母《ばあ》さんはうんうんうなっています。
「どうしたのです」
といくら尋ねても返事をしません。武雄さんはお腹が空いて泣き出しました。
「お母ちアん」
けれどもお母さんは返事も何にもなさいませんでした。そこへお父さんが帰って来られて、
「武雄、お母さんが見たけれ
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