。第一|彼奴《あいつ》は水道鼠のごとスバシコイ上に、坑長の台所に取り入っとるもんじゃけんトウトウ一度も問題にならずに済んで来とるが、用心せんとイカンてや。ドゲナ仕返しをするか解からんけになあ。元来お作どんの貯金ちうのがハシタの一銭まで源次の入れ揚げた金ちう話じゃけんのう!」
 と親切な朋輩連中からシミジミ意見をされた事が一度や二度ではなかったが、そんな話を聞かされるたんびに頭の悪い福太郎はオドオドと困惑して心配するばかりで、ドンナ風に用心をしたらいいか見当が付かないので困ってしまった。
「……そげに云うたて俺が知った事じゃなかろうもん」
 と涙ぐんで赤面したり、
「源次はそげな悪い人間じゃろうかなあ……」
 とため息しいしい、夢を見るような眼付をして見せたりしたので、折角《せっかく》親切に忠告してくれる連中もツイ張合抜けがして終《しま》う場合が多かった。
 しかし問題はそれだけでは済まなかった。福太郎は自分が源次に怨まれている原因が、単にお作に関係した事ばかりではない。それ以外にもモット重大な、深刻な理由があることを、それから後《のち》も繰り返し繰り返し聞かされなければならなかった。

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