斜坑
夢野久作

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)斜坑《しゃこう》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一|番方《ばんかた》から

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「┐」を全角大とした、屋号を示す記号、312−16]
−−

       上

 地の底の遠い遠い所から透きとおるような陰気な声が震え起って、斜坑《しゃこう》の上り口まで這上《はいあが》って来た。
「……ほとけ……さまあああ……イイ……ヨオオオイイ……旧坑口ぞおおお……イイイ……ヨオオオ……イイ……イイ……」
 その声が耳に止まった福太郎はフト足を佇《と》めて、背後《うしろ》の闇黒《やみ》を振り返った。
 それはズット以前から、この炭坑地方に残っている奇妙な風習であった。
 坑内で死んだ者があると、その死骸は決してその場で僧侶や遺族の手に渡さない。そこに駈け付けた仲間の者の数人が担架やトロッコに舁《か》き載せて、忙《せ》わしなく行ったり来たりする炭車の間を縫いながらユ
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