……というのは外《ほか》でもなかった。
福太郎は元来何につけても頭の働きが遅鈍《のろ》い割に、妙に小手先の器用な性質で、その中でも大工道具イジリが三度の飯よりも好きであった。工業学校へ這入る時でも、最初建築の方を志望していたのを、死んだ両親に云い聞かせられて、不承不承に不得手《ふえて》な採鉱の方に廻ったお蔭で、ヤット炭坑から学資を出してもらう事が出来たのであったが、それでもチョイチョイ小遣を溜めては買い集めた大工道具の一式を今でもチャント納屋の押入に仕舞い込んでいる位で、どんなに疲れている時でも、頼まれさえすれば直ぐに、その箱を担いで出かけるという風であった。だから坑内の仕繰《しくり》の仕事なぞも、本職の源次よりかズット見込みが良い上に、馬鹿念を入れるので、出来上りがガッチリしていて評判がなかなかよかった。現にタッタ今|潜《くぐ》って来た炭坑の大動脈ともいうべき斜坑の入口なぞも、去年の夏頃に源次が一度手を入れたものであったが、間もなくその源次が風邪を引いて寝ているうちに、いつの間にか天井の重圧《おもみ》で鴨居が下って来て、炭車《トロッコ》の縁とスレスレになっていたので、知らないで乗
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