って来た坑夫の頭が二ツも暗闇の中でブッ飛んでしまった。そこで取り敢ず福太郎が頼まれて指導者《サキヤマ》になって手を入れた結果、ヤット炭車《トロッコ》の縁から一尺許りの高さに喰止めたものであったが、その時に、源次が材料を盗んで良《い》い加減な仕事をしてさえいなければ、モウ二尺位上の方へ押上げられるであろう事が、立会っていた役員連中の眼にもハッキリと解ったのであった。
こうした福太郎の晴れがましい仕事ぶりが、炭坑中に知れ渡らない筈はなかった。……と同時に本職の源次から怨まれない筈はないのであった。
源次はこうして、ホンの駈出しの青二才に、仕事の上で大きな恥を掻かされた上に、入揚げた女まで取られてしまったのだから、何とかして復讐《しかえし》をしなければ引込みの付かない形になってしまっているのであったが、しかしそこがチャンチャン坊主と云われた源次の特徴であったろうか、それとも源次が皆《みんな》の思っているよりもズット怜悧《りこう》な人間であったせいであろうか。気の早い炭坑連中からイクラ冷笑《ひやか》されても、腰抜け扱いされても、源次は知らん顔をしていたばかりでなく、却《かえ》ってそれから後
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