《のち》というものは、福太郎に出会うたんびにヒョコヒョコと頭を下げて、抜目なく機嫌を取ろう機嫌を取ろうとする素振りを見せ始めたのであった。
すると又そうした源次の態度が眼に付いて来るにつれて、他の者はなおの事、源次の気持を疑うようになった。……今に見てろ、源次が遣るぞ。福太郎とお作に何か仕かけるぞ……といったような炭坑地方特有の、一種の残忍さを含んだ興味を持って見るようになったものであるが、しかもそのさ中にカンジンの福太郎夫婦だけは、そんな事を一向に問題にもしていない模様だったので、一層、皆の者の目を瞠《みは》らせたのであった。お人好しの福太郎は源次に対しても、他の者と同様に何のコダワリもないニコニコ顔を見せる一方に、お作は又お作で、
「あの腰抜けの源次に何が出来ようかい」
と云わぬ半分の大ザッパな調子でタカを括《くく》っているらしかった。今までの白ゆもじ[#「ゆもじ」に傍点]を燃え立つような赤ゆもじ[#「ゆもじ」に傍点]に改良したり、饂飩《うどん》屋にいた時分の通りの真白な襟化粧を復活させたりするばかりでなく、その襟化粧と赤ゆもじ[#「ゆもじ」に傍点]で毎日毎日福太郎の帰りを途中
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