まで出迎えに行き始める。一方には坑長の住宅の新築祝いに手伝いに行ってから以来《このかた》、若い二度目の奥さんに取り入って、恰《あだか》も源次の勢力に対抗するかのようにチョイチョイ御機嫌伺いに行っては、坑長の着古しの襯衣《シャツ》や古靴なぞを福太郎に貰って来てやったりなぞ、これ見よがしに福太郎を大切にかけて見せたので、炭坑中の取沙汰はイヨイヨ緊張して行くばかりであった。
福太郎は斜坑の入口で、自分の手に提《さ》げた安全燈《ラムプ》の光りの中に突立ったまま、そんな取沙汰や思い出の数々を、次から次に思い出すともなく思い出していた。しかもその中《うち》でも源次に関係した事ばっかりは今の今まで……自分のせいじゃない……といったような気もちから一度も気にかけた事はないのであったが、この時に限ってアリアリと眼の前に浮かみ出て来るお作の白い顔と一緒に、そんな忠告をしてくれた連中の眼付きや口付きを思い出してみると、そんな評判や取沙汰が妙に事実らしく考えられて来るのであった。
その当の相手の源次は、タッタ今上って行った十台ばかりの炭車《トロッコ》の真中あたりの新しい空函《あきばこ》の中に、低い天井の岩
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