更のようにホッと溜息をするのであった。
お作は元来福太郎の方から思いかけた女ではなかった。ちょうど福太郎がこの山に来た時分に、下の町の饂飩《うどん》屋に住み込んだ流れ渡りの白ゆもじ[#「白ゆもじ」に傍点]で、その丸ボチャの極度に肉感的な身体《からだ》つきと、持って生れた押しの太さとで、色々な男を手玉に取って来たものであったが、その中でも仕繰夫《しくり》の指導係《サキヤマ》をやっているチャンチャンの源次という独身《ひとりもの》の中年男が、仲間から笑われる位打ち込んで、有らん限り入揚《いれあ》げたのを、お作は絞られるだけ絞り上げた揚句《あげく》にアッサリと突放して見向きもしなくなった。……というのはこれが縁というものであったろうか、その頃から時々饂飩を喰いに来るだけで、酒なぞ一度も飲んだ事のない福太郎のオズオズした坊ちゃんじみた風付《ふうつ》きに、お作の方から人知れず打ち込んでいたものらしい。去年の冬の初めに饂飩屋から暇を取るとそのまま、貯金の通帳と一緒に、福太郎の自炊している小頭《こがしら》用の納屋に転がり込んで、無理からの押掛《おしかけ》女房になってしまったのであった。
その時には
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