を一パイに見開いて、唇をアーンと開いたまま、落盤に蓋をされた炭車《トロッコ》の空隙に、消えもやらぬ安全燈《ラムプ》の光りに照し出されている、自分自身を発見したのであった。同時に、その今までになく明るく見える安全燈《ラムプ》の光明《ひかり》越しに、自分の左右の肩の上から、睫《まつげ》を伝って這い降りてくる、深紅の血の紐《ひも》をウットリと透かして見たのであったが、それが福太郎の眼には何ともいえない美しい、ありがたい気持のものに見えた。しかもその真紅の紐が、無数のゴミを含んでブルブルと震えながら固まりかけているところを見ると、福太郎が気絶したと思った一瞬間は、その実かなり長い時間であったに相違ないが、それでもまだ救いの手は炭車《トロッコ》の周囲《まわり》に近付いていなかったらしく、そこいら中が森閑《しんかん》として息の通わない死の世界のように見えていた。そうしてその中に封じ籠められている福太郎は、自分自身がさながらに生きた彫刻か木乃伊《ミイラ》にでもなったような気持で、何等の感情も神経も動かし得ないまま、いつまでもいつまでも眼を瞠《みは》り、顎を固《こわ》ばらせているばかりであった。
と
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