様に重なり合って、フワリフワリと降り始めたからであった。そうしてその黒い綿雪が、福太郎の腰の近くまで降り積って来るうちに、いつの間にか小降りになって、やがてヒッソリと降り止んだと思うと、今度はその後から、天井裏に隠れていた何千貫かわからない巨大《おおき》な硬炭《ボタ》の盤が、鉄工場の器械のようにジワジワと天降《あまくだ》って来て、次第次第に速度を増しつつ、福太郎の頭の上に近付いて来るのが見えた。そうしてやがてその硬炭《ボタ》の平面が、福太郎の前後を取巻く三つの炭車《トロッコ》に乗りかかると、分厚い朝鮮松の板をジワリジワリと折り砕きながらピッタリと停止した……と思うとそのあとから、又も夥しい土の滝が、炭車《トロッコ》の外側に流れ落ちて来たのであろう。山形に浮上った車台の下から、濛々《もうもう》とした土煙がゆるゆると渦巻きながら這込み始めて、安全燈《ラムプ》の光りをスッカリ見えなくしてしまったのであった。
 その時に福太郎はチョット気絶して眼を閉じたように思った。けれどもそれは現実世界でいう一瞬間と殆んど同じ程度に感じられた一瞬間で、その次の瞬間に意識を恢復した時に福太郎はヒリヒリと痛む眼
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