輪が、一台八百|斤宛《きんずつ》の重量と、千五百尺の長距離と、三十度近くの急傾斜に駈り立てられて逆行しつつ、三十|哩《マイル》内外の急速度で軌条を摩擦して来る火花の光りに外ならなかった。しかもその車輪の廻転して来る速度は、依然として福太郎の半分麻痺した脳髄の作用に影響されていて、高速度映画と同様にノロノロした、虫の這うような緩やかな速度に変化していたために、それを凝視している福太郎に対して、何ともいえないモノスゴイ恐怖感と、圧迫感とを与えつつ接近して来るのであった。
その炭車《トロッコ》の左右十六個の車輪の一つ一つには、軌条から湧き出す無数の火花が、赤い蛇のように撚《よ》じれ、波打ちつつ巻付いていた。そうして炭車《トロッコ》の左右に迫っている岩壁の褶《ひだ》を、走馬燈《まわりどうろ》のようにユラユラと照しあらわしつつ、厳そかに廻転して来るのであったが、やがてその火の車の行列が、次から次に福太郎の眼の前の曲線《カーブ》の継ぎ目の上に乗りかかって来ると、第一の炭車《トロッコ》が、波打った軌条に押上げられて、心持《こころもち》速度を緩めつつ半分傾きながら通過した。するとその後から押しかかっ
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