き上った舌の尖端には、腸《はらわた》の底から湧き上って来る不可思議な戦慄が微かに戦《おのの》きふるえていた。
その時にお作がアノヨの吉[#「アノヨの吉」に傍点]と一緒に踊り出した。道行を喝采するドヨメキが納屋の中一パイに爆発した。
それを聞くと源次は、思わずハッとしたように、屏風の蔭から部屋の中をさし覗いたが、そのまま又も引付けられるように福太郎の顔を振り向いて半身を傾けた。赤黄色いラムプの片明りの中に刻一刻と蒼白く、痛々しく引攣《ひきつ》れて行く福太郎の顔面表情を、息を殺して、胸をドキドキさせながら凝視していた。
「……此奴《こいつ》はホントウに死によるのじゃないか知らん、……頭の疵が案外深いのを、医者が見損のうとるのじゃないか知らん……死んでくれるとええが……」
と思い続けながら……。
しかし福太郎はむろん、源次のそうした思惑に気付く筈はなかった。否《いや》、そんな気持ちで緊張し切っている源次の顔が、ツイ鼻の先にノシかかっている事すら知らないまま、なおも自分の脳髄が作る眼の前の暗黒の核心を凝視しつつ、底知れぬ戦慄を我慢しいしい、全身を固《こわ》ばらせているのであった。
そ
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