相手にして踊ろうとは思わなかったのであった。皮肉といおうか大胆といおうか。一度は思わず喝采をしたものの、流石《さすが》の荒くれ男共もこうしたお作のズバリとした思付きに、スッカリ荒胆《あらぎも》を奪《と》られてしまって、その次の瞬間には、水を打ったようにシンとして終《しま》ったのであった。今にも血の雨が降りそうなハッとした予感に打たれて……。
しかしお作は平気の平左であった。その中央《まんなか》に突立って、アカアカとした洋燈《ラムプ》の光りの中《うち》にトロンとした瞳《め》を据えながら、ウソウソと隅の方の暗い所を覗きまわった。
「……源次さん。出て来なさらんか。マンザラ妾と他人じゃなかろうが」
皆はイヨイヨ固唾《かたず》を飲んで鎮まりかえった。その中で誰か一人、クスリと笑った者があったが、それが却《かえ》って室《へや》の中の静けさを一層モノスゴク冴え返らせた。
「……嫌《いや》らッサなあ。タッタ今、そこに御座ったとじゃが。小便に行かっしゃったとじゃろか」
と呟やきながらお作はチョイト表の方の暗がりを振り返った。すると皆も釣り込まれたように、お作と一緒の方向を振り返ったが、外の方には
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