ンヤツドンヤツどんやつかア
ウワア――アアア――」
[#ここで字下げ終わり]
「ようし……」
とお作は唄が終るか終らぬかに、コップの冷酒をグイと飲み干して立ち上った。
「そんげに妾《あたし》ば冷やかしなさるなら、妾もイッチョ若うなりまっしょ」
と云ううちに、そこに落ちていた誰かの手拭を拾って姉さん冠《かぶ》りにした。それから手早く前褄《まえづま》を取って、問題の赤ゆもじ[#「ゆもじ」に傍点]を高々とマクリ出したので、皆一斉に鯨波《ときのこえ》を上げて喝采した。
「……道行き道行き……」
と叫んだ者が二三人あったが、その連中を睨みまわしながらお作は、白い腕を伸ばしてラムプの芯を煤《すす》の出るほど大きくした。
「源次さん。仕繰《しく》りの源次さん……アラ……源次さんはどこい行きなさったとかいな」
その声が終るか終らないかにモウ一度、割れむばかりの喝采が納屋を揺がしたが、今度は忽ち打切ったようにピッタリと静まり返った。
皆はこの時お作が、饂飩《うどん》屋時代に得意にしていた道行踊りを踊ろうとしている事を、アラカタ察しているにはいた。併し真逆《まさか》に問題の黒星になっている源次を
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