。久し振りのお作どんじゃい。若い亭主持ってもなかなか衰弱《めげ》んなあ」
「メゲルものかえ。五人や十人……若かりゃ若いほどよか」
「アハハハハ。なんち云うて赤いゆもじ[#「ゆもじ」に傍点]は誰《だ》がためかい」
「知りまっせん。大方|伜《せがれ》と娘のためだっしょ」
「ウワア。こらあ堪らん。福太郎はどこさ行《い》たかい」
「押入《おしこみ》の前で死んだごとなって寝とる」
「アハハ。成る程。死んどる死んどる。ウデ蛸《だこ》の如《ごと》なって死んどる。酒で死ぬ奴あ鰌《どじょう》ばっかりションガイナと来た」
「トロッコの下で死ぬよりよかろ」
「お作どんの下ならなおよかろ」
「ワハハハハ」
「おい。みんな手を借せ手を借せ。はやせはやせ」
 と云ううちに皆《みんな》は、コップを抱えたお作の周囲《まわり》をドヤドヤと取巻いた。そうして嘗《かつ》て、ウドン屋でお作を囃《はや》した時の通りに、手拍子を拍《う》って納屋節を唄い出した。
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「白い湯もじ[#「もじ」に傍点]を島田に結《ゆ》わせエ
赤いゆもじ[#「ゆもじ」に傍点]を買わせた奴はア
どこのドンジョの何奴《どんやつ》かア

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