「お前《めえ》があんまり可愛がり過ぎるけんで、福太郎どんが帰りを急ぐとぞい」
とお作が皆《みんな》から冷やかされる事になったが、流石《さすが》に海千山千のお作もこの時ばかりは受太刀《うけだち》どころか、返事も出来ないまま真赤になって裏口から逃げ出して行った位であった。
しかしお作はそれでも余程嬉しかったらしい。その足で飯場《はんば》から酒を二升ばかり提《さ》げて来て、取りあえず冷《ひや》のまま茶碗を添えて皆の前に出した。すると又、それに連れて済まないというので、手に手に五合なり一升なり提げて来る者が出て来る。自宅《うち》の惣菜や、乾物《ひもの》の残りを持込んで、七輪を起す女連《おんなづれ》も居るという訳で、何や彼《か》や片付いた十一時過になると福太郎の狭い納屋の中が、時ならぬ酒宴《さかもり》の場面に変って行った。
「小頭どん一つお祝いに……」
「オイ。福ちゃん。あやかるで」
「生命《いのち》の方もじゃが、ま一つの方もなあ。アハハハ……」
といったような賑やかな挨拶がみるみる室《へや》の中を明るくした。それに連れて後から後から福太郎に盃を持って来る者が多かったが、その中《うち》で
前へ
次へ
全46ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング