どこじゃろかい。お前の家《うち》じゃないか」
と云って聞かせたけれども、福太郎はまだ腑に落ちないらしく、そういう朋輩連中の顔をマジリマジリと見まわしていた。そのうちに付き添っていたお作が濡れ手拭で、汗と、血と、泥と、吹っかけられた水に汚れた顔を拭いて遣りながら、メソメソと嬉泣《うれしな》きをし始めたが、それでも福太郎はまだキョトンとした瞳をラムプの光りに据えていたので、背後《うしろ》の方に居た誰かが腹を抱えて笑い出しながら、
「まあだ解らんけえ。おいアノヨ[#「アノヨ」に傍点]の吉公。チョットここへ来て呼んでやらんけえ。汝《われ》が家《うち》だぞオオオ……イヨオオオイ……イイ……という風にナ……」
と吉三郎の声色を使ったので、皆は鬨《どっ》と吹出してしまった。併《しか》しそれでも福太郎はまだ腑に落ちない顔で口真似をするかのように、
「……アノヨ……アノヨ……」
と呟いたので皆は死ぬほど笑い転げさせられたという。
一方に炭坑の事務所から駈付けた人事係長や人事係、棹取《さおとり》、又は坑内の現場係なぞいう連中が、ホンノ一通り立会って現場《げんじょう》を調査したのであったが、その報告
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