》の光りがクルクルと廻転するに連れて、今度は眼の前の岩壁の凸凹《でこぼこ》が、どこやら痩せこけた源次の顔に似ているように思われて来た。しかも誰かに打ち殺された無念の形相《ぎょうそう》か何ぞのように、ジッと眼を顰《しか》めていて、一文字に噛み締めている岩の唇の間から流れしたたる水滴が、血でも吐いているかのように陰惨な黒光りをしているのに気が付いた。
 ところが、その黒い水の滴《した》たりを見ると福太郎は又、別の事を思い出させられて、吾《われ》知らず身ぶるいをさせられたのであった。
 その岩の間から洩れる水滴が、奇怪にも摂氏六十度ぐらいの温度を保っている事を、福太郎はズット前から聞いて知っていた。それはその岩の割目の、奥の奥の深い処に在る炭層の隙間に、この間の大爆発の名残りの火が燃えていて、その水の通過する地盤をあたためているせいである……而《しか》も炭坑側ではそれを手の附けようがないままに放《ほ》ったらかして、構わずに坑夫を入れているのであるが、そのうちにだんだんとその火熱が高くなって来る一方に坑内の瓦斯《ガス》が充満して来たら、又も必然的に爆発するであろう事が今からチャンと解り切ってい
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