《や》り方は二度とやらない。わかったらそれ以上のどうしていいかわからない処まで突き抜けて来なければ安心出来ない。或る時は口に凝り、或る時は扇に凝る。どうしていいかわからないから結局そんな事になるのだ。馬鹿も承知。キチガイも合点。決勝点なんか無論ない。お前は何処へ行くと聞かれても、何故そんなに走ると問われても、無論返事は出来ない。
 かくして人間世界の戦場は通り越して、他人は勿論のこと自分でもわからない暗黒世界にグングン斬り込み斬り込んで行く。そのうちに夜が明けたら外に誰もいない。自分が相手だったことがわかるかも知れないが、その夜がナカナカ明けない。業劫以前から尽未来際に亙る虚無世界だから。だから実さんのハコビがあらわす妖気には、そうした虚無と暗黒のほのめきが深い。
 自己分析の強い人間は自然ニヒリストになる。だから実さんは、自己の代りに能を否定し尽していると言える。同時に自己をドン底まで能として肯定すべく、自己芸風のすべてを破壊すべく努力している能楽界の闘士と言える。「僕は何もかもぶち壊してウッチャッてしまうんだ。その代りに拾い上げる時は何もかも一時だよ」と嘗て筆者に言った事がある。筆
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