殺して、芸術の全アパートを占有し、奔放自在に荒れまわるであろうところの最も新しい芸術の萌芽でなければならぬ。あらゆる虚栄と虚飾に傲《おご》る功利道徳と科学文化の荘儼……燦爛として眼を眩《くら》ます科学文化の外観を掻き破って、そのドン底に萎縮し藻掻《もが》いている小さな虫のような人間性……在るか無いかわからない超顕微鏡的な良心を絶大の恐怖、戦慄にまで曝露して行くその痛快味、深刻味、凄惨味を心ゆくまで玩味させるところの最も大衆的な読物でなければならぬ。
 この故に探偵小説は人類の思想傾向が、囚われる唯心文化から囚われざる唯物文化に進化し、更に又、囚われたる唯物文化から、囚われざる唯心文化へ反転して行く過渡時代の痛々しい内省心理の産物でなければならぬ。だからこの意味から見て、私が述べた「人類の趣味の低下」は、取りも直さずその向上の前提となって来なければならぬ事になるのである。
 ぷろふいるの支持者諸君。愛読者諸君よ。疑懼《ぎく》し、躊躇するところは絶対にない。本格、変格の名にこだわって、前後を見まわす必要は断じてない。
 すべては探偵小説である。本格、変格の名は単なる説明上の便宜のために附け
前へ 次へ
全11ページ中9ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング