犯罪用具そのものであった。
この故にコペルニクスの探偵趣味は生命《いのち》がけの地動説を発表して聖書のインチキを曝露し、羅馬《ローマ》法王を狼狽、震駭《しんがい》させた。この故にニュートンの探偵趣味は一個の林檎から万有引力の緒を掴んで、大宇宙の神秘をペン先に飜弄しつくして、まだ見ぬ海王星の存在を海王星自身に立証させた。この故に名探偵ダーウィンと、ウォーレスは同時に万有進化の原則を看破し、「人間は猿の子孫である。神の後裔《こうえい》ではない」と結論して、全人類をガッカリさせた。
この故にこの千古不滅の探偵本能を、科学が生むところの社会機構に働きかけさせ、この無良心無恥な、唯物功利道徳が生むところの社会悪に向って潜入させ、その怪奇美、醜悪美を掲出し、そのグロ味、エロ味の変態美を凄動させ、その結論として、その最深部に潜在する良心、純情をドン底まで戦慄させ、驚駭させ、失神させなければ満足しない芸術を探偵小説と名付けられる事になったのである。
この故に探偵小説は現在の如く、ほかの芸術のアパートに間借りして、小さくなって生活すべき性質のものでない。近い将来に於て、過去の一切の芸術を圧倒し、圧
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