る。
探偵小説の使命はそこに生まれた。探偵小説の真使命はここに在った。本格と変格、いずれの名に於てもここ以外になかった。
こうした趣味、傾向は科学を愛好する人間の趣味、傾向、もしくはモット大きい本能と一致している。
科学は、すべての尊といもの、美しいもの、不可思議なものを信じなかった。就中《なかんずく》、神によって作られた宇宙万有の美しさと不可思議さを絶対に信じなかった。その神秘をドン底まで探偵して、電子の作用に過ぎない事を計数の上で嘲笑し、その信仰心理を徹底的に分析して、|+−0《プラスマイナスゼロ》式な利己人の表現に過ぎないと喝破し、一切の美を醜悪な、又は単純無趣味な、直線、もしくは曲線にまで分解し、罵倒しつくした。宗教は阿片《インチキ》である。芸術は自涜である。恋愛は性欲以外の何者でもないとまで弁証して痛快がるに到った。
この故に古来の幾多の科学者――近代文明の創設者は皆、神と道徳に反逆するところの、恐るべき探偵趣味の所有者であった。従ってその発表するところの論文は皆、最も実際的な探偵趣味の発露であり、その作り出すところの薬品と器械は皆、神と自然とを破壊し嘲罵するところの
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