、モット露骨な犯罪心理、病的幻覚錯覚に深入りし礼讃する趣味、傾向を日本人に逆照して見せた。そうしてその逆照手段が探偵小説の本格、変格のあらゆる角度に向って急速に分析され、分離され、印象化され、感覚化され、表現化され、構成化され、超現実化され、未来化され、ダダ化され、ユーモア化され、ノンセンス化されて行った。
 だから探偵小説は、嘗《かつ》て流行していた、あらゆる種類の文芸の中から進化し生まれた、より新しい、より深い、より痛い文芸であった。一切の芸術の伝統精神と形式から離脱して、人間の心理を一層深くアケスケに抉《えぐ》り付け、分析し、劇薬化し、毒薬化し、更に進んで原子化し、電子化までして行くための芸術界の鬼っ子であった。芸術の神を冒涜する事を専門とする反逆芸術であった。
 昔の芸術は衣裳美の礼讃を以て能事終れりとした。それが更に進んで、その衣裳を剥ぎ取った肉体美の鑑賞を事とする中世芸術にまで進化した。それが現代……すなわち探偵小説時代に入っては更に進んで、その肉体を切裂き、臓腑を引出し、骸骨を寸断し、血液から糞尿まで分析し、検鏡して、その怪奇美、醜悪美を暴露し、戦慄しようとしているのであ
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