られたものに過ぎない。すべてを忘れて、この最新、最大の芸術のために精進し、自省し、発表されたい。全人類の芸術を革命されたい。
現代の探偵小説は、まだそこまで突込み得ていないようである。吾々の態度が又、そこまで自省し、徹底していないために、探偵小説の本来の使命を見失い、どうしていいかわからないまま、お互に議論し、足を踏み合い、鉢合わせ合い、間誤間誤《まごまご》しているに過ぎないようである。近頃叫ばれている「探偵小説の行詰まり」もしくは「不振」は、そうしたイデオロギーの不徹底、もしくは全人類の自己反省の不足から来ている事を私は信じて疑わないものである。
但《ただし》、文芸通信誌上で私は「探偵小説が文芸であるかどうかは責任を負う限りでない」と明言しているが、これは謹んでこの項の中から撤回する。
探偵小説は、小説と名乗る以上どこまでも文芸でなければならぬ。とはいえ在来の文芸上の約束に拘泥する必要は一つもない。
その点に於て探偵小説は、その出発点から絶対の自由を確保していると思う。
底本:「夢野久作全集11」ちくま文庫、筑摩書房
1992(平成4)年12月3日第1刷発行
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