――自然主義文芸、自由民権思想の行詰まりに続く、探偵小説の行詰まりによって、人類の趣味傾向が遂にドン底を突いてしまった――と――。
 これは別に、私が知ったか振りをせずとも、歴史が証明してくれるところである。
 個人でも、社会でも、その精神が唯物思想、もしくは虚無思想を根柢とする資本主義文化組織に陥って行くにつれて、その口にしたり発表したりするところが、ますます高尚に、唯心的に向上して行くのとは正反対に、その表面の趣味傾向がグングン低級化して行くのは、争う余地のない厳然たる事実である。古来行われた幾多の革新は、こうした行詰まりを打開し救うべく、そのドン底状態から爆発した一種の自然発火的自爆作用に他ならないので、しかもその結果は、そうした人類の趣味の退化? 動物化? 低級化? を一層深いドン底へと陥るべく役立ちつつ今日に及んで来ている状態は、五・一五事件の当事者ならずとも心ある読史家の斉《ひと》しく認めているところであろう。
 大化の革新、源平の争、応仁の乱の例を引く迄もなく、封建制度が生んだ徳川末期の民心の堕落、唯物思想、虚無思想が生んだ、芝居のトリック化、黄表紙文学、あぶな絵、無残
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