て夜が明けたらすぐに打て」と命じて多額の口止め金を与えた。
 宿屋にも充分の心付けをして「当分娘と共に厄介になるから」と最上等の室《へや》へ案内させた。
 室に通ると音絵は武丸に「又父に会われましょうか」と問うた。
 武丸は自分の胸を打って事もなげに微笑した。
 音絵は元気が出て久し振り湯に入った。

     ―― 16[#「16」は縦中横] ――

 音絵の家は大騒ぎになった。狂気のような養策、泣き伏す看護婦、警察の人々、親類縁者、近所の人々、診察に来る患者などがゴッタ返した。
 戸塚警部は音絵の手筥に秘められた琴の爪が一つ足りない事と、その下に敷いてある新聞に「青眼鏡の賊」の記事が載っている事を発見して腕を組んだ。それから間もなく家の外まわりの土塀の蔭に落ちている紙包みを拾って見ると、中から不足している琴の爪を発見した。手筥の指紋、賊の足跡等が次から次へ調べられた。
 戸塚警部は養策に琴の爪を示して一つ離れている理由《わけ》を問うた。
 養策は空しく頭を振った。
 戸塚警部は歌寿を訪うて同じように琴の爪を示した。
 歌寿は渡された爪を手で探って見て「これは私がお嬢様に差し上げたも
前へ 次へ
全48ページ中17ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング