薬と手筥《てばこ》があった。
 武丸は懐中から手紙を取り出して手筥に入れようとすると、中から琴の爪筥《つめばこ》と「青眼鏡の賊」の記事を載せた新聞の切れ端《はし》が出て来た。
 武丸はハッと驚いた。あたりを見廻して腕を組んで考えたが何か二三度うなずいて手紙を仕舞い、懐中から魔睡剤を取り出して二人の女に嗅がせ初めた。

     ―― 14[#「14」は縦中横] ――

 音絵は夢を見ていた……武丸と連れ立って雪の中を果てしもなくさまようていた……がふと気が付くと自動車の中で、武丸に抱かれて知らぬ野道を走っていた。
 これはと驚く音絵を武丸は押し鎮めた。
 青い眼鏡を見た音絵は一切を覚った。武丸の膝に泣き伏した。
 武丸はその背《せな》を撫でて「何事も因縁です。因縁は運命よりも何よりも貴いものです」と云った。
 音絵は泣きながらうなずいた。
 武丸は盗んで来た音絵の晴れ着と化粧道具でその姿を改めさせ、自分は老人に変装した。

     ―― 15[#「15」は縦中横] ――

 自動車は鶴屋という温泉宿に着いた。
 武丸は運転手に「オトエハタケマルトトモニブジ」と書いた電報を渡して「帰っ
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