ドア》の中央にある小さな覗き窓にお河童《かっぱ》さんの額を押しつけて青白い外の月夜を覗いた。そのままじっと動かなくなった。
その覗き窓の直ぐ下に大きなペンキ塗の犬小舎の屋根が月あかりに見えていた。それはズット前のこと、大沢家に泥棒が這入《はい》りかけたのを調べに来た刑事さんが「ここが一番物騒ですよ」と言ったので、玲子の父親の大沢子爵が、友人の村田大将から貰って来た黒竜江《アムール》生れのセパードを繋いでいる小舎であった。そのセパードはアムールといってステキに大きい、人懐《ひとなつ》こい犬で、その中でも玲子と、玲子の先生の中林哲五郎には特別によく懐《なつ》いているのであった。
しかしその時に玲子は別段にアムールの名を呼ぼうとはしなかった。ただ一心にその犬小舎の周囲を取巻く軒下の暗闇を見守っているきりであった。二時半を打っても三時を打っても……片割月が西側の森に隠れて、そこいらがすこし暗くなりかけても、一心に窓際に掴まっていた。そうして東の空が、ほのぼのと明けかかって来ると、玲子はほっとタメ息を一つして廊下を引返して玄関に出た。足音を忍ばしてまだ真暗な二階のサロンへ上って来た。
とこ
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