継子
夢野久作
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)睡《ね》むられず
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)支那|絨氈《じゅうたん》の
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから1字下げ]
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どこか遠くで一つか二つか鳴るボンボン時計の音を聞くと、睡《ね》むられずにいた玲子はソッと起上った。
屋根裏の窓に引っかかっている春の夜の黄色い片割《かたわれ》月を見上げながら、洗い晒《さら》しの綿ネルの単衣《ひとえ》一枚に細帯を一つ締めて、三階の物置の片隅に敷いてある薄ッペラな寝床から脱け出した。鼻を抓《つま》まれてもわからない暗黒の中を素跣足《すはだし》の手探りに狭い梯子段《はしごだん》を二階のサロンに降りて来た。
……この頃来なくなっている玲子の家庭教師の大学生、中林哲五郎先生に昨日《きのう》の昼間、速達で出した手紙の文句を思い出しながら……。
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中林先生。早く玲子を助けに来て下さい。
今のお母さんが去年の十二月にいらっして、先生が私の家《うち》に来て下さらなくなってからというもの
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