玲子は泣いてばかりおりますの。先生がよく玲子にお話して聞かして下すった西洋の探偵小説とソックリの怖い怖い悲しい悲しいことばかりが玲子の家《うち》の中一パイに渦巻いております。
去年からコカイン中毒になって弱っておいでになったお父様が、二三日前に急に思い立って信州へ鳥の研究にお出かけになってからというもの、そんな怖い悲しいことが急に私のまわりに殖えて来ました。ですけども詳しいことは書いている隙《すき》がありません。
玲子の家《うち》に泥棒が這入《はい》りそうですの。そうしてお母様を殺しそうですの。私どうかしてお母様を助けて上げたくてしようがありませんけど、とても怖くて怖くてそんなことが出来そうにありません。
今朝《けさ》、学校に行きがけに怖い顔をしたルンペンの小父《おじ》さんから手紙を一通ことづかりました。お父様の所番地にいる根高弓子という女の人のアテナになっております。それを誰にもわからないように、お前のお母さんに渡せ……うまく渡さないとお前は、お母さんに殺されてしまうぞって言って怖い顔をして睨まれました。
うちのお母様は根高弓子なんていいません。大沢竜子っていうのですから、あ
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