たしどうしようかと思って、休みの時間に手紙をいじりまわしておりますといつの間にか封筒の下の方の糊が離れて中味が脱け出して来ましたの。そうして悪いことはわかっていたのですけど、あんまり心配ですから玲子はその手紙の中味を読んでしまいましたの。
 玲子はビックリしてしまいました。そうして十二時の休みの時間に大急ぎでこの手紙を書きました。お友達からお金を借りて速達で出します。
 そのルンペンの小父《おじ》さんから貰った手紙には先生からお話に聞いた探偵実話ソックリの怖い怖いことが書いてありました。玲子の今のお母様のズット前のお婿さんが北海道の監獄から逃げ出して来て、久し振りにお母さんに出す手紙なのでした。
 中林先生。あたし、どうしたらいいのでしょう。どうぞどうぞ直ぐにいらっして下さい。玲子にどうしたらいいか教えて下さい。かしこ。
[#ここで字下げ終わり]
  三月二十二日[#地から1字上げ]大沢玲子より
   中林先生様 御許に

 ……梯子段《はしごだん》が二度ばかりギシギシと音を立てた……玲子はハッと吾に返って立止まったが、それでもサロンに来ると、敷き詰めてある豪華な支那|絨氈《じゅうたん
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