》のために足音が消されてしまったので、玲子はホッと安心した。今一度、真向うの仏蘭西《フランス》窓の下側にコビリついている黄色い片割月を見上げたが、そのまま小さい身体《からだ》とお河童《かっぱ》さんを傾《かし》げながら白いマットを敷いた幅広い階段を小急ぎに降りて行った。
巨大な旧式洋館の大沢子爵邸内の春の夜はヒッソリ閑《かん》と静まり返って、階下玄関の大時計《グランドファザー》のユックリユックリとした振子の音が冴え返っていた。
玲子はその時計の針を見ようとしたが、近寄れば近寄るほど背が低くなって駄目なことがわかったので、思いきってその時計の横のスイッチを捻《ひね》って、白い文字板の二時十分を指している長針と短針をチラリと見ると直ぐにまた、消してしまった。するとその時に二階の階段の上から、足音を忍ばして降りて来かかった派手な波斯《ペルシャ》模様の寝間着の裾と、白い、しなやかな素足の爪先がヒラヒラと、慌てて二階の方へ逃げ上って行ったが、しかし時計の方に気を取られていた玲子はチットモ気づかなかった。またも手探りで中庭に向っている廊下の途中にある小さな切戸《きりど》の処へ来ると、その低い扉《
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