母親の竜子に違いないことを見定めると、玲子は思わずハッと飛上った。
「お母さまッ……」
 と叫んで走り寄って、血だらけの胸に縋《すが》りついてワッとばかりに泣き伏した……。
 ……と思ったがかの時遅くこの時早く、玲子はその屍体の一歩手前で、背後からシッカリと抱き止められていた。
 そう気がついた玲子は、全身の血が一時にピッタリと冷え凍ったように思った。抱き止められたまま、またも石のように固くなって、手足を縮み込ませていた。その時に背後から抱き止めた人が声をかけた。それは静かな優しい声であった。
「玲子さん。屍体に触っちゃいけません。もうジキ警察の人が来ますから……」
「アラッ……中林先生……」
 そう叫ぶと同時に玲子は緩んだ中林先生の腕の中でクルリと向き直って制服姿の胸に顔を埋めた。シッカリと縋りついたままワッとばかりに泣き出した。
 中林先生は、その逞ましい腕に、泣いている玲子を軽々と抱き上げるようにして、サルーンへ連れて来た。そこのロココ式の長椅子の上に腰を卸して、泣き沈んでいる玲子のお河童《かっぱ》さんを慰めるように撫でまわしてやった。そうして古びたネル一枚の見すぼらしい寝巻姿に
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