包まれた瘠せ枯れている玲子の手足を見まわすと、その男らしい切れ目の長い眼に涙を一パイに浮かめた。汗まみれになった自分の髪毛を房々に撫で上げながら、赤ちゃんをあやすように言って聞かせた。
「可哀そうに……苦労させましたね、玲子さん……」
玲子は中林先生の肩に縋りながら一層烈しく泣き出した。
「玲子さん……僕は今のお母さんが初めてこの家《うち》に来られた時からこの女《ひと》はイケナイ人だ……玲子さんのためにならない人だということを看破《みやぶ》っていたのです。ですからこの家《うち》に来るのをやめて、あの女のすることを眼も離さずに見張っていたのです。玲子さんにも早く打ち明けようと思っていたのですが、玲子さんは頭はステキにいいんですけども心がトテモ正直ですから、もし僕が、あの女を疑っていることが、玲子さんを通じてあの女にわかって用心させるといけないと思いましたから、わざと黙っていて、あの女が玲子さんをイジメるのを知らん顔して見ていたのです。あなたも辛かったでしょう。しかし僕も辛かったですよ。ほんとにほんとにすみませんでした」
「イイエイイエ。先生。先生を怨む気持なんか……あたし……あたし……
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