く無疵《むきず》な肉体が、草の中にあおのけに寝て、左手《ゆんで》はまだシッカリと前裾を掴んでいた。
私はチラリと汽車の方をふり返りながら、その左手を着物から引き離して検《あらた》めてみた。手の甲も、掌《てのひら》もチットも荒れていないようであるが、中指の頭にヨディムチンキが黒々と塗ってあるのに、そこいらが格別|腫《は》れても傷ついてもいないところを見ると、刺《とげ》か何かを抜いたあとを消毒したものであろう。して見ればこの女は看護婦かな……と思い思い手早く胸を掻き開いてみると、白く水々しく光る乳房と、黒い、紫がかった乳首があらわれたが、その上を、もう、一匹の大きな黒蟻が狼狽して駈けまわっていた。
さては……と私は息を詰めた。すぐに安物らしい白地の博多帯をさぐってみると……どうだ……ムクリムクリ……ヒクリヒクリと蠢く胎動がわかるではないか……たしかに姙娠五箇月以上である。なお序《ついで》に、袂《たもと》と、帯の間を撫でまわしてみると、筥崎から佐賀までの赤切符の未改札が一枚と、小型の名刺に「早川ヨシ子」「時枝ヨシ子」と別々に印刷したのが十枚ばかりずつ白紙に包んだのが、帯の間から出て来た。
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