《じれった》そうにひねりまわした。
「手証《てしょう》が上らないからさ。あの姉歯という奴は、大学の婦人科に居《お》った時分から、主任教授に化けて大学前の旅館に乗り込んで、姙婦を診察して金を取った形跡がある。今開いとる産婆学校も、生徒は三四人しか居らんので、内実は堕胎専門に違いないと睨んどるんじゃが、姉歯の奴トテモ敏捷《はしっこ》くて、頭が良過ぎて手におえん。噂や投書で縛れるものなら縛って見よという準備を、チャンとしとるに違いないのだ」
「フーム。この辺の医者の摺《す》れっ枯《か》らしにしてはチット出来過ぎているな」
「そうかも知れん。殊に今度の事件などは、相手が佐賀一の金満家と来とるから、姉歯も腕に縒《より》をかけとるという投書があった。むろん十が十まで当てにはならんが、彼奴《きゃつ》のやりそうな事だと思うて前から睨んではおったんだ」
「投書の出所《でどころ》はわからないか」
「ハッキリとはわからんが、大学部内の奴の仕事という事はアラカタ見当がついとる。早川の今の下宿を世話した奴が、姉歯だという事もチャンとわかっとる。何にしてもヨシ子が子供さえ生めば、姉歯の奴、本仕事にかかるに違いない
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