ておいたのに……」
「ソ……そいつは勘弁してくれ」
と大塚警部は眼を丸くしながら、慌てて手を振って飛び退《の》いた。苦笑しいしいハンカチで顔をコスリ廻わした。私は儼然《げんぜん》として坐り直した。
「ウム……君がその了簡ならこっちにも考えがある」
「……マ……マ……待ってくれ。考えるから……」
「考えるまでもないだろう。僕は今日まで一度も君等の仕事の邪魔をしたおぼえはない。秘密は秘密でチャンと守っているし、握ったタネでも君等の方へ先に知らせた事さえある。現に今だって……」
「イヤ。それは重々……」
「まあ聞き給え……現に今だって、自分の書いた記事を肯定しているじゃないか。本当を云うと編輯長以外の人間には、自分の書いた記事の内容を絶対に知らせないのが、新聞記者仲間の不文律なんだぜ、況《いわ》んやその記事を取った筋道まで割って……」
「イヤ。それはわかっとる。重々感謝しとる……」
「感謝してもらわなくともいいから信用してもらいたいね。姉歯という医学士が、善玉か悪玉かぐらい話してくれたって……」
「ウン、話そう」
大塚警部は又汗を拭いた。帽子を冠り直して一層|身体《からだ》をスリ寄せた。
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