場から見ると不思議な事だらけなんだ」
「ウン。そんなら云おう。その写真はやっぱり看護婦仲間の噂から手繰《たぐ》り出したのさ。アノ恵比須通りの写真屋には、大学の看護婦がよく行くからね。二人で秘密《ないしょ》で撮ったのを見るかドウかしたんだろう。そんな写真があるという事をチラリと聞いたから、試しに当って見ると図星だったのだ。受取人は柳川ヨシエという偽名でネ。チャンと種板まで取ってあった……そん時の嬉しさったらなかったよ」
「いかにもナア。……それじゃアノ姉歯という産婆学校長の医学士が、一生懸命で二人の世話を焼いとる事実は、どうして探り出したんか」
「内科の医局での話さ。姉歯という産婆学校長が、この頃よく内科の医局へ遊びに来て、早川とヒソヒソ話をする。何でもヨシ子がこの頃急に佐賀へ帰ると云って駄々《だだ》をこね出したので、二人が困っているという噂があるんだ。……ドウダイ……事実とピッタリ一致するじゃないか」
「相変らず素早いんだね君は……」
「これ位はお茶の子さ。それよりも今度はアベコベに訊問するが、アノ姉歯という男が、産婆学校長の医学士だという事を君はどうして知っている。新聞にはわざと伏せ
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