か、代議士とかいうものは一列一体に太平の世に湧いた蛆虫《うじむし》ぐらいにしか思っていなかったのであろう。一依旧様、権門に媚《こ》びず、時世に諛《おもね》らず、喰えなければ喰えないままで、乞食以下の生活に甘んじ、喰う物が無くなっても人に頭を下げない。妻子を引連れて福岡の城外練兵場へ出て、タンポポの根なぞを掘って来て露命を繋いでいたというのだから驚く。御本人に聞いてみると、
「ナニ、タンポポの根というても別に喰い方というてはない。妻《かない》が塩で茹《ゆ》で、持って来よったようじゃが最初の中《うち》は香気が高くてナカナカ美味《おいし》いものじゃよ。新|牛蒡《ごぼう》のようなものじゃ。しかし二三日も喰いよると子供等が飽いて、ほかのものを喰いたがるのには困ったよ。ハッハッハッ」
 と笑っているところは恰《まる》で飢饉の実話以上……ここいらは首陽山に蕨《わらび》を採った聖人の兄弟以上に買ってやらなければならぬと思う。別に周の世を悲しむといったような派手なメアテが在った訳ではなかったし、聖人でも何でもない。憐れな妻子が道伴《みちづ》れだったのだから尚更《なおさら》である。
 その時代の事であった
前へ 次へ
全180ページ中86ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング